atachibana's blog

引っ越しました。http://unofficialtokyo.com

2014年12月号(No.378) たぬきそば夜回り号 - 末井昭の「編集者十の大切」「雑誌十の定義」、「金水敏」が3度登場。

本の雑誌 2014年12月号 (No.378) / 本の雑誌社 / 648円 + 税
表紙デザイン 和田誠 / 表紙イラスト 沢野ひとし

本の雑誌378号

本の雑誌378号

 

 特集は「天才編集者・末井昭に急接近!」。

西原理恵子のマンガと、深夜女装して『パチンコ必勝ガイド』を宣伝する編集長という意識しかなかったので特集と言われてもピンと来なかったのですが、周囲の評価、「編集者十の大切」「雑誌十の定義」の常識的な感覚、過去の実績等々を見ていくと、決して楽しいことばかりやってたら運良く時代と結果が付いてきたな人ではないことが分かりました。ある種の天才なのでしょうが努力もありますよね、語録や読者の質問に対する答えも丁寧ですし。可愛かずみへの素っ気ないコメントは何か思うところがあるのかなと深読みしましたが...。女装については内澤旬子がこのファッションをどう評するのか聞きたいところ。
なお今回の発見は神藏美子。ツボちゃんと別れて末井昭と結婚したこと、それを『たまもの』としてまとめたことは知っていたのですが、彼女の文章に触れるのは初めて。じっとりした得体の知れない肌触りで、末井昭の平易な表現と真逆で驚き。この人も「天才」の一味なのでしょう(ツイッターの文章は普通)。久しぶりに見たのが銀玉親方。たった2個の質問にきちんと答えられないあたり変わっておらず安心しました。

編集者十の大切
一、待ち合わせに遅れるな
一、常に礼儀を忘れず
一、誰とでも分け隔てなく付き合い
一、原稿を受け取ったらすぐ感想を言う
一、企画は街で考える
一、机上で編集しない
一、思い付いたら人に話す
一、アイデアは貯金しない
一、飽きられる前に飽きる
一、二十四時間営業と思え

雑誌十の定義
一、雑誌は表紙
一、雑誌はタイトル
一、雑誌はビジュアル
一、雑誌はライブ
一、雑誌はバランス
一、雑誌は見出し
一、雑誌はコラム
一、雑誌は元気
一、雑誌は心
一、雑誌は相乗効果

末井昭
(2007年)

「編集者」は普通の会社員でもそうでしょうし、「雑誌」はブログでも同じですね。実物の写真はこちら
デコ有限会社  http://deco-tokyo.com/sueiakira/sueiakira.html

 

今号は年末のベスト10の時期が近いため良い本が多いのか新刊めったくたガイドが充実。どれも良いので見出しに紹介されている作品だけ並べると『ピルグリム』『愉楽』『環八イレギュラーズ』連城三紀彦の新刊2冊、『3時のアッコちゃん』『日本懐かし自販機大全』『ゲームセットにはまだ早い』。最後の本なんか、北上次郎の紹介だけで泣きそうです。

江弘毅は『村上海賊の娘』を泉州弁から読み解きますが、これが面白いのなんの。逆に泉州弁を肌で感じると感じないとでは小説の面白みが何倍も違うのではないか、と。その一般読者には不要であろう違いを文字にするため、膨大な時間と手間をかけた和田竜の凄さに改めて驚きます。ちなみに三万円使い放題に登場した中島京子が触れた『〈役割語〉小辞典』の作者が、方言指導にレスした金水敏青山南の『コレモ日本語アルカ?』の作者としても登場します。今号は金水敏号ですね。

内澤旬子「着せ替えの手帖」は自分篇。「着たいと思う服がどうにも似合わない。これまでのように無邪気に服を選べない。」を被服更年期障害と名付け、年齢の問題だけでなく、『世界屠畜紀行』のイメージとも悩む話し。センスのある人なら尚更でしょうね。そんな人でさえ、ババ臭すぎるとおもったワンピースを周囲に推され、ウケもよく、「自分が着たい服が似合う服とは限らない。」面白い。宮田珠己は寺社彫刻に対して「果たしてブームになるだろうか」と疑問を投げかけていますが、石がブームになるのなら...と思うのは私だけでしょうか。荻原魚雷は『スポーツ遺伝子は勝者を決めるか?』の紹介で興味深いのは「一万時間の法則」- プロのレベルに達するいは1万時間くらいかかる - に疑問を投げかけている点。この説を経験的に信頼しているので、どう疑問なのか確認したいですね。どんなに優秀な遺伝子でも最低限の訓練、それが一万時間、は必要と思うのですが...。

祝!復活の入江敦彦ベストセラー温故知新は社会派ミステリー。社会派でなく純粋なミステリーとして絶賛の『砂の器』、社会派ってワイドショーだよねという読み方で『人間の証明』、そして横溝正史は戦後の社会派と、相変わらず新鮮な視点を展開してくれて良いです。ところで森村誠一は良い意味で器用な人、読者の期待に応えられる人なので、入江敦彦は皮肉っぽく書いてますが、案外計算ずくじゃないかな、と思いました。

吉野朔実は舞台「ウォー・ホース」の感想。タイトル「パペットなのに本物の馬でした」から観劇後の友人との表情から完璧。
細かな泣かせどころ多数で楽しみな中場利一「鬼花」は大詰め。ただの部下として登場していた貫戸がグングン良くなり、バディ物としても成立し、シリーズ化しそうです。

木村晋介地下鉄サリン事件とオウム問題に対する関係者コメントは終了。前置きもなく続いたので一体何なんだという思いはありましたが、まだ続いているんだよ、被害も事件もという強いメッセージがあったことにようやく気づきました。単行本化されるようです。

 

本の雑誌」は2年サイクルくらいで連載陣を入れ替えます。いつもなら連載終了の方の名前を挙げるのですが、今号は忘れているようです。
誌面から確認できたのは関口苑生、間室道子、榎本文昌、津田淳子、池澤春菜。倉本さおりは異動。明記されていませんが、佐久間文子、古幡瑞穂もそうかも。めったくたガイドの方々は安定していたので、2年と言わず続けて欲しかった気もしますが、まずはお疲れ様。