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プレデターズ - 低調なアンソロジー

 プレデターズ / エド・ゴーマン & マーティン・H・グリーンバーグ編 / 扶桑社ミステリー文庫 / 760円(税込)
カバー・デザイン: 辰巳四郎
Predators, Edited by Martin H.Greenberg & Ed Gorman

プレデターズ (扶桑社ミステリー)

プレデターズ (扶桑社ミステリー)

 

一頃流行したホラーのアンソロジー。タイトル縛りはそれほどでもなく様々なタイプの「捕食者」が描かれています。別格の「ハードシェル」を除外すると、トップ3は「裂け目」「英雄たち」「渇望」で、これらがぎりぎり平均点以上という感じ。全体として低調でした。

 

「ハードシェル」宮部みゆきも絶賛のクーンツ作品。ハードシェルな警官フランクは楽しみながら凶悪犯を追う。話の緊密度や展開の速さが、現在の弛緩しきった長編と違い過ぎます。毎度のネタバレしてからの失速感も短編だからか目立ちません。ただどうしても「ヒドゥン」が浮かびますよね、これ。あちらの公開が1987年10月。「Night Visons 4」が1987年。時期としては微妙です。

「カリグラフィー・レッスン」逃げていた元夫から見つかったため、隣人の高齢の婦人を協力させて復讐しようとする。イマイチ。

「ゴムの笑い」B級ホラー映画に魅せられる人々。もう少し広がれた話の気がする。

「醜悪さに牙を剥く」殺人鬼の独り言で終止しますが、ラヴクラフトアウトサイダー」と同じネタなのは偶然か。と言うかそれだけ使い古された手か。

「心切り裂かれて」「ファウンデーション」シリーズもそうですが天才がすべてを予期してプログラミングするってネタが昔から嫌いです。と思いながらも前半はラッシュの行動がギリギリ進む様子にハラハラと読み進めました。人物一人ひとりの肉付けや会話が良く、ステレオタイプな話をギリギリ平凡から救い上げています。事件性を増す後半は視点が刑事側にもぶれてしまい散漫気味。犯人像は良いですが最後はちょっとあっさりし過ぎでは? 少なくともプロローグにあった母親を看取る図と同じくらいの躊躇いや情景をコンピュータ側に持たせて欲しかったです。

「思春期」温室の中の思春期の少年と叔母さん、その少年の胸は膨らみ始め...という淫靡な図から想像される100分の1も話が盛り上がらずまったく残念な作品。

「傷跡同盟」。イスタンブールの秘密結社を巡るミステリー。

「骨」ヘンリー・デイヴィッド・ソローの言葉どおりに周囲の無駄なものをそぎ落としていくジェフ。予想通り。

「恩讐」娘を殺されたサントスはFBI捜査官から犯人が別事件での検察側の証人であることを知らされる。途中でネタが分かり特に驚きもせず。

「渇望」TV に引き込まれるシュルマン。ノヴェライズ専門のイメージが強いエド・ナーハらしいと言えばらしい展開。短いシーンながら新しい父親が抜群の存在感です。浜野アキオの訳がいいのかも。

「思いちがい」強姦魔に夢見る女の話か、よく分からない。ただ白石朗の艶やかな訳だけが印象に残りました。

「殺っちまえば動かない」ローレンス・ワット=エヴァンズという作者名に記憶はありませんが「ぼくがハリーズ・バーガー・ショップをやめたいきさつ」が傑作だったのは覚えています。で期待したわけですが残念。なんのひねりもない。関係ないけど「ギャラクシー街道」は『銀河ヒッチハイクガイド』ではなく、「ぼくが...」の影響のほうが下地という意味では大きいのでは?

「コレクター」ナイフコレクターの話。面白くない。

路傍の石」そこまでやるかというタイトル by 白石朗。内容は善意で試みた応急処置を訴えられた医師の話。面白くない。関係ないけど、今月号の本の雑誌(2015年12月号)の亀和田武のエッセイに山本有三の豪邸と大きな黒い石が出てきて笑った。

ファラオの冠」歯科医で奥歯にかぶせた金冠から詠唱が聞こえる。どんなオチにするのか期待していたら逃げられた。

「裂け目」本のページで指を切ったアンの傷口に欲情するチャールズ。舐め回すような描写がいやらしくまさかのエンディングも含めて巧い。ところでアンの日本のコミックに出てきそうなキャラクターは海外作品では珍しいと思うのですがいかがでしょうか。

「なあんだ」リンは小声で、はにかむように笑った。「だったらもっと早く指を切っとくんだったな」

ですから。

「紅玉と真珠」死んだ連続殺人鬼をあの世で待っていたものは。何のひねりもない話だが、タイトルの由来だけは面白い。

「いにしえの血」ドラキュラ映画の宣伝に離れ小島の棄てられたホテルで仮装パーティが行われる。お膳立ては良かったがそれだけ。ビショフ博士はちょっとかっこいい。

「英雄たち」短い話しながらキャラクターの造り、台詞がとてもいい。この作品を「いにしえの血」に続けたのは編集者のやさしさ。

「ヴァレンタイン」これも人物がよく描けた作品。

「爬虫類の習性」アフリカのだるさとやりきれない人間関係を絡ませたいが整理されていないため混乱しています。カットバックも効果は薄い。別の人が描けばもう少し良い作品になったのでは。