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グラーグ57 - 傑作!

グラーグ57 / トム・ロブ・スミス (上)(下) / 田口俊樹訳 / 新潮文庫 / 667円(上)、667円(下) 税別
Secret Speech by Tom Rob Smith, 2009

グラーグ57〈上〉 (新潮文庫)

グラーグ57〈上〉 (新潮文庫)

 

カバー写真 : (C) Jacques Langevin / Sygma / Corbis / amanaimages
(C) Dorling Kindersley / ゲッティ イメージズ 

グラーグ57〈下〉 (新潮文庫)

グラーグ57〈下〉 (新潮文庫)

 

カバー写真: Erich Lessing / PPS通信社
(C) Dorling Kindersley / ゲッティ イメージズ

 

チャイルド44』の続編。国家保安省時代にラーザリ司祭を逮捕したレオは、7年後、犯罪者集団ヴォリの首領となった司祭の妻フラエラにより、養女ゾーラの命と引き換えに、極東の金鉱に収容されているラーザリを救出するよう要請される。

冒険小説の定番、沈黙と陰鬱の国ソビエトを真正面に描いた前作同様、本作もそのムードは完全に受け継がれ、さらに冬の強制収容所、フルシチョフスターリン批判、ハンガリー動乱が加わります。
ストーリー自体は単純な復讐劇。と思わせながら背景には政治的な駆け引きがあるという毎度おなじみの展開ですが、まぁ、読ませる、読ませる。特にフラエラの造形が良く、彼女の個人的な生い立ちや、どこに転ぶのか分からないレオの妻ライーサや、ゾーラとの会話が、あり得ない復讐劇に真実味を増します。
話が3/4で一段落し、ハンガリー動乱につながった時は唐突な流れに疑問に感じましたが、一瞬の政治的な春に家族の再生を重ねあわせる技を見せてくれます。仕掛けられた謎解きも含め大団円... で、いいのですかね。『チャイルド44』は後半、話を作りすぎて自滅していましたが、本作は最後まで緊張感が持続しました。傑作。

原題はフルシチョフスターリン批判のスピーチが非公開の場で行われたことによるもの。邦題はラーザリが収容された第57強制労働収容所から。まぁ『チャイルド44』のヒットがあるから分からないでもないですが...。ちょっとねぇ。