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すべてのまぼろしはキンタナ・ローの海に消えた

すべてのまぼろしはキンタナ・ローの海に消えた (ハヤカワ文庫 FT)
すべてのまぼろしはキンタナ・ローの海に消えた / ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア / 浅倉久志訳 / 早川文庫FT / 588円(560円)
カバーイラスト 松尾たいこ / カバーデザイン 守先正+桐畑恭子
Tales of the Quintana Roo / James Tiptree Jr.


邦題が示すとおり、キンタナ・ローの海とマヤ族をめぐる、現実と異世界の境界につかの間浮かび出た時空での話し。「リリオスの浜に流れついたもの」は不思議な人間、あるいは海?との出会いにとり憑かれた男の話、「水上スキーで永遠をめざした若者」は水上スキーで本土までの一番乗りを達成する男の話、そして「デッド・リーフの彼方」は海底のごみが巨大な女性に化けて男を誘う話。


「リリオス」の青年の語り口がいい。暑い夏の海の感じ。正体不明のものに惹かれた感じ。語り手の焦りもどことなく青年への好感を思わせて暗示的です。「水上スキー」は前半のロブスターの行進がいいものの、メインの話はまぁまぁ。「デッド・リーフ」はちょっとありきたりな作為を感じます。もっとも実際にはこれが一番ありそうですが。


本として見たとき全体的に分量が少なすぎるし、挿絵のセンスも今ひとつ。長編の後、短編集の後におまけ的に挿入する方がよかったのではないか?